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よみもの 音楽の友
※「音楽の友」2017年2月号より転載
取材・文=広瀬大介 Text=Daisuke Hirose



世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(BPO)。演奏水準の高さに追随するように、時代ごとの最新技術をフル活用したメディア展開を次々と実現しているこのオーケストラが、次に目を付けたのが現在最大容量のメディア「iVDR」。

自らの演奏の数々を映像で収録しているのはもちろんのこと、視聴者をあっと驚かせる新たな実験的試みがなされている。




最大容量メディアを用いたBPOの次なる挑戦!


録画を繰り返しているとすぐに満杯になってしまう、ブルーレイディスクレコーダーの内蔵ハードディスクにお悩みの方も多いことだろう。この欠点を補う一つの解決策として用いられているのが、取り外し可能なiVDRという大容量記録メディアである。

2002年から実用化されているので、実際にお使いの読者もいらっしゃることだろう。主に家族一人ひとりが自分のライブラリーとして一つのiVDRを所有し、自分が録画した番組を観たいときに機械に差し込んで使う、という用途が想定されていると思われる。メディアの中身は一般的なハードディスクであり、容量で言うならば、既存のどのメディアよりも大きい。

500GB、1TBのメディアならば、かなりのデータを収められるだろう。

近年、このiVDRを再生メディアの一つとして市販ソフトに用いる動きが出てきており、すでにiVDR向けの再生専用機も登場している(日立マクセル VDR-P300)。

クラシックの分野において現状で登場しているソフトは、全50タイトルを収めた『映像で巡る名演撰集 ベルリン・フィルの軌跡 iVDR Collection』である。



サイモン・ラトル
(C)2016 JP Co.,Ltd All Rights reserved Licensed through EuroArts Music International GmbH


カラヤンからラトルまで BPOの名演が約64時間!


この50タイトルには、BPOの定期演奏会以外から、特別な機会の演奏会が集められている。

ヨーロッパの各地へ赴いて客演する「ヨーロッパ・コンサート」(1995〜2015年から15公演)、ベルリンの夏の風物詩となった「ヴァルトビューネ・コンサート」(1993〜2011年から7公演)、大晦日の「ジルヴェスター・コンサート」(1996〜98年、2006〜07年の5公演)、ダニエル・バレンボイムの弾き振りによるモーツァルト「後期ピアノ協奏曲集」、クラウディオ・アバドのベートーヴェン「交響曲選集」、ロリン・マゼールの「言葉のない《リング》」、1992年のセルジウ・チェリビダッケ再会コンサート、名演セレクションと題された、クルト・ザンデルリング、アバド、ピエール・ブーレーズ、小澤征爾、サイモン・ラトルの5タイトルが選ばれている。

特典としてヘルベルト・フォン・カラヤンの《第九》が選ばれているのも興味深い。

これらの合計210曲、約64時間の映像を収録できるメディアは、いまのところほかに存在しない。もっともお値段も通常版が16万6000円、高音質なリニアPCM版が17万6000円(いずれも税抜)。単純に割り算すれば、1タイトルが3500円前後。個々の演奏会のソフトを買うことを考えれば「妥当な値段」と言うべきか、「もう少し割引してくれても」と言うべきか。



クラウディオ・アバド
(C)2016 JP Co.,Ltd All Rights reserved Licensed through EuroArts Music International GmbH


驚愕の実験的音源 BPOの先進性は健在


iVDRはソフトを入れておくただの「容れ物」なので、基本的にもともとの収録時の画質・音質がそのまま再生されることになる。

1990年代から約四半世紀、BPOというオーケストラがいかに同時代の最先端技術に興味を示し続けてきたか、そしてそれらをフル活用して、自らの記録を残してきたか、この映像を時代順に試聴すればそれを如実に感じられることだろう。

今回のiVDRでの発売も含め、カラヤン時代以来の、新しい技術を貪欲に取り入れようとする同団のスピリットは未だ健在である。

実は、その先進的な技術を追い求めようとする実験的精神は、最後の最後に用意されている。

演奏会場の音響をより理想的に再生するための「残響分離制御技術 “レヴトリーナ”」「仮装音源生成技術 “ヴァーチャライザー”」

これを用いた実験的音源の具体的な説明はソフト添付の冊子に譲るが、演奏時の直接音と残響音を別個に収録し、そのバランスを按分することで、様々な再生機器において理想的に聴くことのできる音源を作り分ける技術である。

ビゼー《カルメン》の〈闘牛士の歌〉をサンプルとして、オリジナルのサウンド、5・1チャンネル用のサラウンド、直接音が主体となる指揮台〜客席前部で聴こえる音(再生する部屋が残響を有する場合)、残響音が主体となる客席中央〜後部で聴こえる音(同じく残響に乏しい場合)、小型ステレオ用の広がりのある音、ヘッドフォン用の前方に定位した音、以上6種類を同じ音源で聴き比べることができる

今回、試聴にあたっては再生機とテレビの間にAVアンプを挟み、特に残響音の違いについてはその効果を如実に実感することができた。試聴する部屋の特性はもちろんのこと、細部を聴き分けたいか、響き全体に身を委ねたいか、自分の気分によって切り替えるのも効果的だろう。

今回、再生機として使用したVDR-P300は、再生時にややビリ付いたこともあり、画質や音質にある程度の影響を与えたのではないか、という不安も残る。

今後、iVDRが新しい時代の再生メディアとして定着していくためには、ソフトの充実と価格の低廉化、より高機能な再生機の普及など、越えるべきハードルがいくつもある。大容量ならではの映像ソフトの愉しみ方を数多く提供してくれるような存在として、iVDR一層の発展を望みたい。



小澤征爾
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ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 135周年記念企画
『映像で巡る名演撰集 ベルリン・フィルの軌跡 iVDR Collection』
〔全50タイトル+特典1タイトル/全210曲・総収録時間約64時間〕


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※リニアPCM形式は再生可能な機器が限られますのでご注意ください
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